もっちゃんラボ | ソマティック・エクスペリエンシング・プラクティショナー(SEP)/臨床心理士/公認心理師/保有のもっちゃんが、スクールカウンセラー歴22年/養護施設心理療法担当職員歴10年の経験を元にSEとパーツ心理学を用いる心理療法でトラウマケア | アドラーは「トラウマはない」と言ったけど、体の反応はどうするの?ソマティックエクスペリエンシングが教えてくれること

アドラーは「トラウマはない」と言ったけど、体の反応はどうするの?ソマティックエクスペリエンシングが教えてくれること

もっちゃんラボ | ソマティック・エクスペリエンシング・プラクティショナー(SEP)/臨床心理士/公認心理師/保有のもっちゃんが、スクールカウンセラー歴22年/養護施設心理療法担当職員歴10年の経験を元にSEとパーツ心理学を用いる心理療法でトラウマケア | アドラーは「トラウマはない」と言ったけど、体の反応はどうするの?ソマティックエクスペリエンシングが教えてくれること

アドラー心理学の「トラウマ否定」とは何か

アドラー心理学をご存知でしょうか。『嫌われる勇気』の大ヒットによって、日本でも広く知られるようになったアルフレッド・アドラーの思想の中に、多くの人が驚く主張があります。それが「トラウマは存在しない」という考え方です。

アドラーはこう言いました。人は、経験そのものによって傷つくのではない。その経験に、自らが与えた「意味」によって傷つくのだ、と。

つまり、「過去のトラウマのせいで私はこうなってしまった」「あの経験があるから、自分は変われない」というのは、アドラーの目線では「言い訳」に過ぎないということになります。過去は変えられないけれど、過去の出来事をどう意味づけするかは、今この瞬間の自分が選べる。そういう力強いメッセージです。

確かに、この視点は非常に大切だと思います。過去をどう捉え直すか、そこに新しい意味を見出していくことで、人生の見え方がガラリと変わることがあります。認知行動療法や、ナラティブセラピーなどの心理的アプローチも、こうした「意味の再構築」を大切にしています。

しかし、ここで多くの人が感じる違和感があるのです。


「頭ではわかってる。でも、体が言うことを聞かない」

機能不全家庭で育った方、幼少期に感情を抑圧せざるを得なかった方、あるいは感受性が強く・繊細で、周囲の影響を人一倍強く受けてきた方――そういった方々と話していると、よくこんな言葉を聞きます。

「頭では大丈夫ってわかってる。でも、体が固まってしまう」 「あの人の顔を見ると、なぜか息が苦しくなる」 「理由もないのに突然、強烈な孤独感に飲み込まれる」 「幸せな未来を描こうとしても、どうしてもリアルに感じられない」

これは「考え方のクセ」の問題でしょうか。意志が弱いせいでしょうか。アドラーの言う「意味づけ」を変えれば、すぐに解決するものでしょうか。

そうではありません。こうした反応は、あなたの思考や性格の問題ではなく、神経系レベルで起きている生理的な反応なのです。


トラウマの本質は「神経系の反応パターン」にある

「HSPを治したい」「感受性が強いのを治したい」「繊細なのをどうにかしたい」という言葉で検索してここにたどり着いた方もいるかもしれません。でも、まずお伝えしたいことがあります。

HSP(Highly Sensitive Person)や強い感受性は、「治す」べき欠陥ではありません。それは神経系の特性です。ただ、その繊細な神経系が、過去の体験によって過剰に警戒モードに入ったまま、なかなかリセットできない状態になっていることがある――それが問題の本質です。

現代のトラウマ研究が明らかにしているのは、トラウマとは「出来事そのもの」でも「思考のクセ」でもないということです。トラウマとは、自律神経系の極端な反応パターンが固定化された状態のことを指します。

人間の神経系には、危険を察知したとき、三つの反応モードがあります。「戦う・逃げる(交感神経の活性化)」「固まる・凍りつく(背側迷走神経の活性化)」「つながる・安心する(腹側迷走神経の活性化)」です。これはポリヴェーガル理論として知られ、ステファン・ポージェス博士によって提唱されました。

過去に強いストレスや恐怖を経験したとき、神経系は自動的に「戦う・逃げる・固まる」のモードに入り、その場を生き延びようとします。これは本来、危険が去れば自然に解除されるはずのものです。

しかし、機能不全家庭で育ったり、繰り返し傷つく体験をしてきた場合、この「警戒モード」がリセットされずに固定化されてしまうことがあります。その結果、今は安全な状況にいても、体が勝手に「危険だ」と反応し続けてしまうのです。


ソマティックエクスペリエンシングとは何か

ここで登場するのが、**ソマティックエクスペリエンシング(Somatic Experiencing / SE)**というアプローチです。

ソマティックエクスペリエンシングは、ピーター・リヴァイン博士が開発した、身体感覚に基づくトラウマ療法です。「ソマティック」とはギリシャ語で「身体」を意味します。つまり、思考や言語ではなく、身体の感覚から直接アプローチしてトラウマを解放していく手法です。

リヴァイン博士は、野生動物の観察から重要なことを発見しました。チーターに追われたシマウマが、運良く逃げ切ったとき、体をブルブルと震わせる行動をとります。これは単なる恐怖の震えではなく、戦う・逃げるために溜め込んだエネルギーを神経系が放出しているプロセスです。野生動物は、この「完了の動き」によって、恐怖体験をリセットし、何事もなかったかのように草を食み始めます。

人間も同じメカニズムを持っています。しかし人間は、「震えるのは恥ずかしい」「泣いてはいけない」「感情を出してはダメ」という社会的なルールや、機能不全家庭の中で身につけた抑圧のクセによって、この自然な「完了のプロセス」を途中で止めてしまうことが多いのです。

途中で止まったエネルギーは、体の中に蓄積され、緊張や麻痺、フラッシュバック、慢性的な不安などの形で表れ続けます。

ソマティックエクスペリエンシングは、このプロセスを安全な環境の中で、ゆっくりと完了させていくことを目的としています。


セッションで起きること――安心の中での体との対話

「トラウマを治したい」「過去の影響から自由になりたい」と思っても、いきなり過去の辛い記憶を掘り起こすことは、必ずしも必要ではありません。ソマティックエクスペリエンシングでは、むしろそうした「一気に掘り起こす」アプローチは取りません。

大切なのは、まず安心できる関係性をつくることです。

セラピストとの間に信頼と安全の感覚が育まれると、クライアントは少しずつ、自分の体の内側に意識を向けられるようになります。「今、胸のあたりに何か感じますか?」「その感覚は、どんな質感ですか?重い?軽い?温かい?」

こうした問いかけを通じて、体の感覚に気づき、その感覚とゆっくり向き合っていきます。これを**トラッキング(追跡)**と呼びます。

そしてもうひとつ重要なのが、**タイトレーション(少量ずつの接触)**という考え方です。砂糖を少しずつお湯に溶かすように、圧倒されない程度の小さな単位で感覚と向き合います。一気に感情の洪水に飲み込まれるのではなく、波に乗って、降りて、を繰り返しながら、神経系の許容量を少しずつ広げていくのです。

その出来事そのものをはっきり思い出せなくても構いません。体に残った緊張や衝動が、少しずつ動き、完了していく――その自然なプロセスをサポートするのが、ソマティックエクスペリエンシングです。


トラウマインフォームドケアという視点

こうした身体ベースのアプローチ全体を包含する概念として、**トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care)**があります。

トラウマインフォームドケアとは、「この人はなぜこんな行動をするのか(What’s wrong with you?)」ではなく、「この人に何が起きたのか(What happened to you?)」という視点から関わるケアのあり方です。

機能不全家庭で育ち、親からの情緒的サポートを得られなかった方。感受性が強く・繊細で、学校や職場で深く傷ついてきた方。HSPとして生きづらさを感じてきた方。こうした方々の生きづらさや「問題行動」は、意志の弱さや性格の問題ではなく、神経系が過去の危険に対応するために適応した結果です。

トラウマインフォームドケアのセッションでは、評価や判断のない安全な空間の中で、あなたのペースで、体の反応と向き合っていきます。


アドラーが正しくて、ソマティックもまた正しい

アドラーの「意味づけを変えることで人は変われる」という主張は、確かに力強い真実を含んでいます。しかし同時に、神経系に刻まれた反応パターンには、「考え方を変える」だけではアクセスできない領域があることも事実です。

どちらが正しいか、ではなく、どちらも人間の変容の一側面を捉えているのです。思考の層から変えるアプローチと、身体の層から変えるアプローチ、その両輪があってはじめて、深いところからの変化が生まれます。

「HSPを治したい」「繊細なのをどうにかしたい」「機能不全家庭で育った影響から自由になりたい」――そう感じているあなたへ。

あなたの感受性の強さや繊細さは、欠陥ではありません。ただ、その神経系がもう少し「安全」を学び直す機会を必要としているだけかもしれません。

安心できる関係の中で、体の声にゆっくり耳を傾けてみること。それが、長い年月をかけて固まってきたものを、少しずつほぐしていく、最初の一歩になります。

もし気になった方は、ぜひその一歩を踏み出してみてください。

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